公認会計士の方から「全般分析をするために2期分の試算表を提出してください」と依頼を受けました。全般分析とはどのようなことをするのでしょうか?
全般分析とは、各勘定科目の増減理由や、勘定科目間の関係(比率や回転率など)を調べることです。全般分析を実施することで、企業環境の変化や、監査人が見落としている重要な虚偽表示リスクがないかなどを検討します。監査人は全般分析を実施するために各勘定科目の数値を把握する必要があるため、ご質問のように試算表を要求することがあります。
今回の記事では、全般分析の定義と意義(全般分析を実施する意味)を確認したのち、監査の計画段階・最終段階における具体的な実施方法を解説します。なお、この記事で解説する全般分析はリスク評価手続として実施する分析的手続であり、実証的分析的手続は含まれませんのでご留意ください。
全般分析の定義と意義
実は、「全般分析」という言葉は公認会計士が関連的に使っている用語であり、監基報(監査基準報告書)で定義されたものではありません。公認会計士が「全般分析」というときには、概ね次の意味で使用します。
(監査の計画段階)
勘定科目レベルでの増減額や関係(比率分析、回転率分析)をチェックし、企業環境の変化や重要な虚偽表示リスクとして識別すべき事項を把握するための分析を行う。
筆者による定義
(監査の最終段階)
勘定科目レベルでの増減額や関係(比率分析、回転率分析)をチェックし、監査の過程で監査人が見落としている企業環境の変化や重要な虚偽表示リスクとして識別すべき事項がないか、改めて全体を俯瞰して確かめる。
筆者による定義
全般分析は監査の計画段階(監査が始まる前〜早い段階)1と、監査の最終段階(期末監査をしている頃〜意見表明をする前)2に必ず行われます。
監査の計画段階における全般分析
監査の計画段階で全般分析を実施することは監基報315号の要求事項に示されています。
《1.リスク評価手続とこれに関連する活動》
12.監査人は、以下に関する適切な基礎を提供する監査証拠を入手するために、リスク評価手続を立案し実施しなければならない(A11項からA18項参照)。
(1) 不正又は誤謬による、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク及びアサーション・レベ
ルの重要な虚偽表示リスクの識別及び評価
(2) 監査基準報告書330に従ったリスク対応手続の立案
監査人は、裏付けとなるであろう監査証拠を入手する方向に偏らないように、又は矛盾するで
あろう監査証拠を除外する方向に偏らないよう、リスク評価手続を立案し実施しなければなら
ない(A14 項参照)。13.リスク評価手続には以下を含めなければならない(A19項からA21項参照)。
監基報315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
(1) 経営者への質問、及び内部監査の活動に従事する者(内部監査機能がある場合)を含む、その他の適切な企業構成員への質問(A22 項からA24 項参照)
(2) 分析的手続(A25 項からA29 項参照)
(3) 観察及び記録や文書の閲覧(A30 項からA33 項参照)
引用文で赤線のハイライトをした通り、分析的手続は必須の手続となっています。では具体的に何をすれば良いのでしょうか?監基報315の適用指針(A25項〜A29項)には、監査計画時の全般分析とし実施すべき事項が解説されています。適用指針では、①分析的手続を実施する理由、②分析的手続の種類、③自動化されたツール及び技法の3つに分けて解説されています。
分析的手続を実施する理由
まずは①の分析的手続を実施する理由について確認しましょう。分析的手続により監査人が知ることを青の下線、分析的手続が何に役立つかを赤の下線で分けてみました。
《① リスク評価手続として分析的手続を実施する理由》
監基報315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
A25.分析的手続は、監査上留意すべき他の関連情報との矛盾、通例でない取引又は事象、金額、比率及び傾向を識別するのに有益である。識別された通例でない又は予期せぬ関係は、監査人が重要な虚偽表示リスク、特に不正による重要な虚偽表示リスクを識別するのに役立つことがある。
A26.リスク評価手続として実施する分析的手続によって、気付いていなかった企業の状況を識別したり、変化などの固有リスク要因がどのようにアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすのかについて理解することがあり、それゆえ、分析的手続は重要な虚偽表示リスクを識別し評価するのに役立つ。
監査人は、分析的手続を通じて次のことを識別・理解することで、重要な虚偽表示リスクを識別、評価すること、特に不正による重要な虚偽表示リスクを識別することに役立ちます。
- 他の関連情報との矛盾
- 通例でない取引又は事象
- 金額、比率及び傾向
- 気づいていなかった企業の状況
- (変化などの)固有リスク要因がどのようにアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすのか
分析的手続の種類(筆者による具体的な検討例あり)
これだけだとよくわかりませんね。もう少し具体的な説明のある②分析的手続の種類について確認をしましょう。具体的な例を青の下線で示しています。
《② 分析的手続の種類》
A27.リスク評価手続として以下の分析的手続を実施することがある。
・売上高と売場面積や販売数量の関係などの財務情報と非財務情報の両方を用いた分析的手続
・総括的に集約された情報を用いた分析的手続。ただし、このような分析的手続の結果は、重要な虚偽表示が存在するか否かについての兆候を示しているにすぎない。例
多くの企業(ビジネスモデル及びプロセスが複雑でない企業、並びに情報システムが複雑でない企業を含む。)の監査において、監査人は、前期末残高と四半期末残高又は月次残高との増減比較を実施することで、潜在的にリスクが高い領域を識別することがある。A28.本報告書は、監査人によるリスク評価手続としての分析的手続の利用を扱っている。監査基準報告書520「分析的手続」は、監査人による実証手続としての分析的手続(以下「分析的実証手続」という。)の利用及び監査の最終段階の分析的手続の実施に関する監査人の責任を扱っている。したがって、リスク評価手続として実施する分析的手続は、監査基準報告書520の要求事項に従って実施する必要はないが、監査基準報告書520の要求事項と適用指針は、監査人がリスク評価手続の一環として分析的手続を実施する際の有益な指針となることがある。
監基報315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
財務情報とは、試算表やB/S、P/Lなどの会計数値のことをいいます。また、非財務情報とは財務情報以外の情報をいいます。もっとざっくりいえば、仕訳の金額に書かれる数値は財務情報、書かれない数値は非財務情報です3。A27では、財務情報とそれ以外の入手可能な色々な情報を使って分析しましょう、ということを言っていると理解できます。
A27で解説されている売上高(財務情報)と売場面積(非財務情報)の例について考えてみましょう。例えば衣料品販売店(ユニクロやしまむらなど)であれば、売場面積と売上高はある程度相関性が高いことが推測されます。要するに、売場面積が増えれば売上が増え、反対に面積が減れば売上も減る、ということです4。監査人は、まず実際の数値を使って売場面積と売上高の月次推移表・年次推移表を作成します。次に、作成した推移表をもとに売場面積の増減の方向と、売上高の増減の方向(増加傾向、減少傾向の方向)を確かめます。そして、この結果が監査人の理解と一致しているかを確認します。一致しない場合にはその原因を調査します5。例えば売場面積は減っているのに売上が増えているような場合(面積↓、売上↑)には、来店する顧客数が増えたとか、商品の販売単価が上がった、売場面積と無関係な新ビジネスの売上が大きくなっていた、などのことが原因として考えられます。
原因がわかってメデタシメデタシ……で終わるのではなく、これらの原因が重要な虚偽表示リスク(不正リスク)につながるかさらに考えを深める必要があります。せっかくですので検討例を書いてみたいと思います。
- 顧客数が増えたということは何らかの販売促進活動(セールや広告宣伝など)をしている可能性があります。それらの経費は適切に計上されているでしょうか?前払費用等の資産勘定に計上されている額が増えているとしたら、期間按分は妥当でしょうか?もしかしたら顧客数UPのために多額のコンサル費用(業務委託費)を払っているかもしれません。コンサル費用は成果物に見合ったものでしょうか?顧客数が増えたことに乗じて後からコンサルをやったことにして、経費を流用していないでしょうか?
- 商品の販売単価が上がったのはなぜでしょうか?もしかしたら物価上昇に伴う仕入価格のUP、人件費増加の価格転嫁の影響かもしれません。そうすると、売上は増える一方で、売上総利益率(粗利)や営業利益率は変わらないかもしれません。実際はどうでしょうか?また、商品の販売単価が上がった場合には棚卸資産の評価(収益性の低下に伴う簿価切り下げの方法)に影響が出るかもしれません。棚卸資産の評価は洗替法でしょうか、切離法でしょうか?切離法で行うはずなのに、販売価格の低下の部分だけ戻ってしまっていないでしょうか?
- 売場面積と無関係な新ビジネスの売上が大きくなっていたとすると、これまで監査では気にしなかった業務について、固有リスクの識別、重要な虚偽表示リスク(不正リスク)の評価にとどまらず、個別の業務プロセスの識別と評価、リスク対応手続の方針、もっと広げると上場会社であればJーSOXへの影響を含めて検討が必要になります。新ビジネスで内部統制が脆弱だとすると、実証手続の範囲を検討することも必要です。
先ほどのA26との関連も補足しておきます。上記の検討例を、A26で示されている分析的手続の役立ちに合わせてみましょう。
- 他の関連情報との矛盾:売場面積が減少しているのに売上高が増加している。
- 通例でない取引又は事象:多額のコンサル費用を払っていた。
- 金額、比率及び傾向:商品の販売単価が増加しているが、売上総利益率、営業利益率はどうか?(追加分析が必要)
- 気づいていなかった企業の状況:新ビジネスの売上が大きくなっている。
- (変化などの)固有リスク要因がどのようにアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすのか:新ビジネスは商流を理解している人が少なく、担当責任者の裁量の余地が大きい→キックバックが生じやすい環境かもしれない。
自動化されたツール及び技法
③の自動化されたツール及び技法についても適用指針の内容を確認しましょう。……とはいっても、A29はあまり大したことは言っていません。超簡単にまとめると「Excel使えますよ、詳細な売上データとかをもらってデータビジュアライゼーションをすることもありますよ」という内容です。今では当たり前となっていることですし、こんな文言があること自体公認会計士の時代遅れ感が漂うので、削除してほしいです。
《③ 自動化されたツール及び技法》
A29.分析的手続は、多くのツール又は技法を利用して実施することが可能で、ツール又は技法は自動化されている場合がある。データに対して自動化されたツール又は技法を用いて分析することをデータアナリティクスということがある。
監基報315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)例
監査人は、スプレッドシートを利用して実績と予算を比較することもあれば、一方で、より具体的なリスク評価手続が必要となる取引種類、勘定残高又は注記事項を識別するために、より高度な手続として、企業の情報システムからデータを抽出し可視化技法を用いて当該データを詳しく分析することもある。
監査の最終段階における全般分析
監査の最終段階で全般分析を実施することは、監基報520で要求されています。
《2.全般的な結論を形成するための分析的手続》
監基報520「分析的手続」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
5.監査人は、監査の最終段階において、企業に関する監査人の理解と財務諸表が整合していることについて全般的な結論を形成するために実施する分析的手続を立案し、実施しなければならない(A16項からA18項参照)。
最終段階の全般分析も、基本的な目的や実施事項は計画時と同様です。引用文で赤線のハイライトをした通り、分析的手続は必須の手続(実施しなければならない)となっています。では具体的に何をすれば良いのでしょうか?監基報520の適用指針(A16項〜A18項)をみてみましょう。
《3.全般的な結論を形成するための分析的手続》(第5項参照)
監基報520「分析的手続」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
A16.第5項に従って立案され実施された分析的手続の結果から得られた結論は、財務諸表の個別の構成単位又は構成要素について監査中に形成された結論を裏付けることが意図されている。これは、監査人が意見表明の基礎となる結論を導くのに役立つ。
A16項で言っていることは、全般分析で増減(前期と当期の財務数値の比較)や比率(利益率や非財務情報を用いた分析)分析をした結果を各勘定科目で実施したリスク対応手続(運用評価手続&実証手続)の結果と比べることで、未発見又は未対応となっている重要な事項がないことを判断できるということです。
《3.全般的な結論を形成するための分析的手続》(第5項参照)
監基報520「分析的手続」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
A17.第5項に従って実施された分析的手続の結果、これまで認識していなかった重要な虚偽表示リスクを識別することがある。このような状況において、監査基準報告書315は、監査人の重要な虚偽表示リスクの評価を修正し、これに応じて計画したリスク対応手続も修正するように監査人に要求している(監基報315第36項参照)。
A17項は結構大事なことをいっています。A16を実施した結果や、最終段階の全般分析を実施する過程の中で、新たな重要な虚偽表示リスクを識別する場合について説明しています。要するに、全般分析を実施した結果として、監査手続に漏れがあることがわかったということです。この場合には監査計画を修正し、リスクに対応するための追加の監査手続が必要になります。追加の手続は想定外に時間がかかることがありますので6、最終段階の分析的手続といえども、決算審査の直前に実施することは(監査チームに)リスクがあります。
《3.全般的な結論を形成するための分析的手続》(第5項参照)
監基報520「分析的手続」|日本公認会計士協会 (下線、ハイライト、太字は筆者による加工)
A18.第5項に従って実施される分析的手続は、リスク評価手続として利用される手続と同様である場合がある。
A18項は文言だけ見ると良く分からないんです。これは分析自体を一緒にしても良い(計画時の全般分析と最終段階の全般分析を同時にやる)ということなのか、分析の内容(実際に行われる分析の詳細。勘定科目の増減分析とか、使用する財務・非財務情報とか)のことなのか。ここでは一応、計画・最終の分析はそれぞれ行うが、分析の内容は同じでも良い、という意味で捉えたいと思います。そうすると、詳しい分析の方法は監基報315号のA27〜A29を参照してね、という指示とも考えられ、A16、A17で詳しい分析方法が書いていないことも納得できます。
全般分析は監査で数少ない創造性を発揮できる手続(私見)
ここまでかなりの文量を使って全般分析について語ってきました。全般分析の概要について、少しは皆様の理解が深まっていることを願うばかりです。さて、そんな全般分析も実務では定型業務として片付けられてしまっていることが少なくないと感じています。適当に勘定科目と金額(前期・当期の2期)を並べ、増減額を算出し、各科目のリードスケジュールから増減要因を転記する。とりあえず作っておけばOK d(^_^o)なんてところもあるでしょう。
でもちょっと待ってください。それで会社のビジネスに対する理解は深まるのでしょうか?重要な虚偽表示リスクは識別できるのでしょうか?監査手続の結果が十分であると言えるのでしょうか?
もう少しだけ全般分析に真面目に取り組みませんか。「非財務情報」として使える情報があるかどうかだけでも調べてみましょう。もしあるなら分析に利用しましょう。意図した結果になっていない?もしかしたら会社に対する理解が不足しているのかもしれません(専門家としての知見の不足)。また、実はそれが重要な虚偽表示リスクや不正リスクを示しているのかもしれません(不十分なリスク評価)。
全般分析の結果を正しく解釈するためには、創造性を発揮して自分の理解と実際に数字として現れている事実を結びつけること、結びつかないのであれば欠けているピースを探すことが必要です。全般分析とは、監査で数少ない創造性を発揮できる手続なんです。単純作業であるPL項目の詳細テスト(証憑突合)は効率的に実施し、全般分析に時間を使うことで監査の楽しさは増すのではないかと思います。……と、最後に私見を述べてみました。
- 監基報315号 13項 ↩︎
- 監基報520号 5項 ↩︎
- 驚いたことに、財務情報、非財務情報について、監基報(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」で明確に定義されていません。どんな情報をどこまで財務情報に入れるかは人により異なると思います。例えば売上であれば、仕訳(売掛金 100 / 売上 100)は財務情報であるということは異論が少ないと思います。ただ、その内訳を示す出荷データや商品台帳(例えばA商品100円×1個の売上記録)を財務情報とするか、非財務情報とするかは意見が分かれるでしょう。これを財務情報とする場合、A商品の年間累計売上数量(例えば1,000個)はやはり財務情報となるのか、それとも数量だけで切り取ったら非財務情報となるのか。各人の会計哲学が試されるところです。 ↩︎
- もちろん、出店する地域により差はあるでしょうが、大雑把な傾向としてこのように考えることはそれほどおかしくないと思います。当然ですが、会社の状況が異なり「売場面積が減ったら売上が上がる」ことが通常なのであれば、それを前提とすることが考えられます。一般的な感覚としては、もし面積↓売上↑という状況が通常だったとしたら、その通常こそ疑問を持つべきかとも思います。 ↩︎
- 監査人の推測と実際の動きが一致している場合には、全般分析の範疇では追加の分析を行わないことが通常です。監査人の推測自体が正しいかチェックしてるの?という疑問が生じるかもしれません。これについて厳密なチェックをしているかは疑問ですが、少なくとも全般分析は実施者(現場作業をする公認会計士 or 資格は持っていないけど監査実務を行う人)、責任者(監査報告書に署名をする人)、そして審査担当者(監査チームから独立した公認会計士)の3人の視点が入るため、ある程度はチェックできているのではないかと個人的には考えています。もちろん3人とも常識がなければ以上は見抜けません。 ↩︎
- 監査手続の漏れは勘定科目レベルにとどまりません。子会社が多数存在する場合には、子会社1社を重要な構成単位とすべきであったのに漏れていた、なんて全く笑えない状態が生じることもあります。国内子会社なら飛んでいけば突貫工事が可能かもしれませんが、海外子会社だとそれもできず、監査報告書の発行を遅らせることも考えないといけないかもしれません(もちろん、重要な構成単位に対する手続が漏れている状況で監査報告書は発行できません)。 ↩︎

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